流されて。

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昨年の12月、左目の黄斑円孔の手術のため一週間入院することになった。
私が受ける手術は、原因となっている黄斑の前膜を除去するために、硝子体を取り除いて膜を剥ぎ、穴をふさぐためにガスを入れるもの。硝子体手術を受けると白内障になるので、白内障の手術も同時に受ける。

入院日当日病室に案内されると、私のベッドのある4人部屋にはすでに女性が2人入院していた。1人は網膜剥離の40代くらいの女性、1人は私と同じ黄斑円孔の手術を受けた70代くらいの方だった。

挨拶し、雑談モードになったので手術の様子を聞くと、「怖がってる暇がないくらいあっという間だった」「とにかく流れ作業」「手にボールを握らされる」など興味深いものだった。そして2人とも「手術中ずっと音楽が流れていた」と言っていた。
40代くらいの人は「ドリカムと槇原敬之だった」と言い、もう1人の70歳くらいの人は「歌謡曲だった。尾崎紀世彦?」というようなことを言った。2人は、年代に合わせてくれるのかしらね、と笑った。
前日に手術を受けたばかりのその70代の女性は、手術後3日間はずっと下を向いていないといけないのだけど、話が盛り上がってくるとやっぱり顔が上がってきてしまう。

午後の手術の時間になり、手術着に着替え、髪をゴムで二つに縛った。ベッドに寝て手術室に運ばれていく途中、突然五人くらいの人に取り囲まれ、あっという間に、頭の位置調整をされ、血圧計測をされ、腕を固定され、手にテニスボールくらいのサイズのボールを握らされ、目を洗うように目薬をたくさん流し込まれた。
「ちょっと、しみますよー」と、麻酔の目薬を入れられた後、手術室へ。次の番の人も運ばれてくる。確かに感心するほどの流れ作業。

その後は先生から目に注射をされた気がする。そして確かに音楽が流れていた。でも、知らない曲で、声は槇原敬之っぽかった。布が被されているので右は布が見えるだけで、左目ではしっかり様子がわかっている。
左目に何か刺されたような、押し付けられるような感じがした。視界には、徐々に光が滲んでいくような、水彩絵具のようなニュアンスのものが広がる。

結構、綺麗だな。

一瞬、パーっと飛蚊症のようなものが見えた。一体今は何をやっているのだろう、などと考えていたら、「麻酔を足しますね」と言われ、再度注射をされた。
麻酔を足したあたりから左目の視界は真っ暗になった。目を開けているのに何も見えない。
そして、ギーとかジーとか機械音だけが聞こえる。
これは硝子体カッターの音なのだろうか。YouTubeの医者目線の動画で予習していたことが行なわれているはずなのだが、どうして左目は何も見えないのだろう。これは正しい状態なのだろうか。不安でたまらなくなる。

手術の途中、先生の声だけが聞こえる。「これ曲がってるな」と(おそらく)器具を交換したり、舌打ちする様子がわかる。

そんなこんなで、体感で20分くらいの手術を終えた。
終了後、眼帯をされた。手術は問題なく終わりましたよ、と看護師さんに言われたが、何も見えてなかったので「ほんと?」という気分。

説明は特になかったので想像するに、前半は白内障の手術で水晶体を人工物に取り替えたのではないだろうか。そして後半の真っ暗な時間が硝子体手術だったのではないかと。
以前、「取り除いた硝子体が見たい」と書いたけれど、そんな悠長な感じではなかった。分刻みでたくさんの手術をこなす先生と、それをサポートするスタッフの皆様。流れていく大勢の患者の中の一人がそんな呑気な戯言を言える雰囲気ではない。

手術中流れていた曲だが、後半は不安すぎたため音楽に全く意識がいっていなかった。無理やり思い返すと「いきものがかり」のような声質の知らない曲が流れていた気がする。年代に合わせてくれていたのか、たまたまだったのかは結局謎のままだが、本当にいきものがかりだったら年代説は崩れてしまうね。