傷み

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しばらく前の、ある忙しい朝。突然視野の一部がよく見えていないことに気づいた。欠けている、というよりは、例えば強い光を見た後に残像が残っているような、そんな感じで一部がはっきり見えていないのだった。

あれ、と思って片目を閉じてみる。反対の目で見てみる。どちらの目も同じような状態だ。そして、目を閉じても、目の前の一部で何かギラギラチカチカしている。
前に書いたように私は目にいろいろ難があって目医者にずっと通っているが、それはどちらかの目の症状なので、両目とも同じ状態、ということはない。しかも、目を閉じてもあるってことは、これは、原因は「脳」じゃないのか?
結局、しばらくそのギラギラは続いたが、だんだん視野の横の方に広がっていって、最後には消えた。
何事もなかったことにホッとしつつ、ネットで調べると、どうやら「閃輝暗点」というやつらしい。まさに、見えた形、経過もウィキペディアに書いてある通りだった。1つだけ違うのは、その後に頭痛が全くなかったこと。それについてもウィキペディアは、「中年の場合で、閃輝性暗点だけあって、その後に頭痛を伴わない場合は、まれに脳梗塞、脳動脈奇形、脳腫瘍や、血栓 による一過性の脳循環障害が原因である可能性がある。」と教えてくれている。
中年って私のことじゃないか。
私は7年くらい前、最もタチのいいタイプの脳腫瘍である、(取りやすい位置の)髄膜腫の手術を受けていた。その後2回くらい定期検査を受け、ここ数年特に受けていなかった。
再発というよりは、どちらかといえば、また何か怪しいことが別件で脳に起こっているのでは?という不安がよぎる。
何事もないとは思いつつ、以前手術を受けた病院へ行って現象を話し、念のためCTを取ってもらった。脳の画像を見ながら説明を受ける。特に再発はない、と医師。そして、初めてですか?閃輝暗点は私も3年に一度くらいありますよ。血管が収縮しても偏頭痛まで至らないこともあって、等々の説明。
しかし私は閃輝暗点を口実にして自分の脳の画像を久しぶりに見に来たようなものだったから、脳画像を見つつ、この脳、大丈夫なの?普通なの?収縮とかないの?なんか形おかしくね?などど考えていた。思い切って、あの、形が... と聞いてみる。
ああ、ちょっとまっすぐ撮影できなかったみたいですね。ほら、こっちは右、こっちは左が大きいでしょ。
医師が断層画像の座標を変えながら説明してくれる。そしてある場所で止めて言った。
ここは少し傷んでますけどね。
そこは以前手術した部分で、医師は手術前に撮った腫瘍画像を表示し、比較するように並べて表示した。久しぶりに見た腫瘍画像。5cm x 3.5cmだったっけか。脳が圧迫されている。
今日撮った画像にはその腫瘍は当然だが全くないし、潰されてた脳も大分元に戻ってるように見えるのだが、やっぱり医師から見たら脳の傷みがわかるんだな。
おそらくその傷みが影響しているのは左手の指に若干の痺れのような感覚の鈍さがあることで、それは手術が終わってからもう何年もずっと続いているので、すっかり慣れて普段忘れてしまっている。
傷んでいるのかあ。
当然知ってたはずなのに改めて聞いたその言葉はなかなかにインパクトがあった。
私はMRIの予約を入れた。多分何事もないのだろうけどね。