天井の記憶らて

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 ここのところ、夜、大量にある写真をスキャンしては捨てていた。昔はスキャナでスキャンして写真を「捨てる」なんてこと思いもしなかったけれど、最近はデジカメに慣れているのであまり抵抗がなくなった。それにプリントによっては色が全然変わってしまっているものもあるし、本気で保存するならデジタルアーカイブだよな、とも思っていた。実は本気で残したいというよりは、簡単に処分できないだけなのだが。
 父親がどこに隠し持っていたのか次から次へといろんな写真と書類を小出しにしてくる。それを連日読んだりスキャンしたりを繰り返すうち、私は忘れていたことを次から次へと思い出してしまった。実家を離れてからの長い年月をかけて忘れたことをここ数日で大量に思い出したせいか、夜なかなか寝付けなくなっていた。
 最近はそんなことはなくなったけれど、子供のころは寝つきが異常に悪くて、よく眠れなくて怖くて泣いていたのだった。柱時計が今がどんなに遅い時間なのかを30分ごとに私に教える。朝まで眠れないのではないかという恐怖。そんな当時の気持ちと共に、自分がこの家のいろんな部屋で眠れなかった状況が、子供の目線で蘇ってきた。複数世帯仕様のこの家で、私はいろんな部屋で寝て、そのたび眠れなかった。亡くなった祖父が私に「眠れなくても、横になっているだけで体は休まるんだからそれでいいんだ」と言ってくれたこと。眠れなくて退屈で、猫の鳴きまねをしたら、隣の部屋で親が「寝言言ってるて」と、猫でないことがすぐにばれて、不思議に思ったこと。この家の増改築の歴史の中で、今では写真と脳内にしか存在しないいろんな部屋が過去にはあった。そんな古い家で、子供だった自分が見たそれぞれの夜の天井がフラッシュバックした。
 昨晩思い出した内容を母親に確認すると、それぞれの記憶を時系列に並べてくれた。祖父と一緒に寝ていたのは、妹か弟を出産する時ではないか、ということだった。
 もうすぐ、今あるあれらの部屋も、記憶の中だけの家になってしまうのだな。